突然だけど、宇多田ヒカルのことを書こうとおもう。


多分だけど、今、二十台半ばくらいの人にとって、彼女の曲はそれぞれの思い出の場面を飾る曲になっているのではないかと思う。
僕は彼女の曲を、僕の友達のUの家で初めてちゃんと聴いた。


そのころ僕は、山口にある某大型スーパーでバイトをしていた。
自転車で行きかえりする途中に、Uのアパートはあった。
Uは社会人入学で入ってきた学生で、僕らより一回りとちょっと上だった。
けれど、そんな年齢差を感じさせない親しみやすさと、笑いの感覚で、「不動の地位」を築きつつあった。
そのUのところに、Oと僕はバイト帰りにちょくちょく立ち寄っていたものだ。
お酒の味を覚え始める頃。
缶チューハイ」なんていう、今から考えれば随分と子どもっぽいものと、少しの食材をもって、僕らは三人でよく夕食を共にした。


そんな時にUのステレオ(あれは「ステレオ」と表現したほうがしっくりくる)から良く流れていたように記憶しているのが、宇多田ヒカルの『First Love』だった。


男三人、しがない夕飯。
たわいない、くだらない、しかし時々切実な会話。
たぶん、半分酔っ払いながら、「いやー、くるねぇ」とかなんとか言いながら聴いていたんだろう。
そんなむさくるしい光景と、対照的な美しいメロディ。
そしてこの曲は当時16歳の「少女」によって書かれたという事実。
これほど、「ミスマッチ」という言葉がフィットする光景も他になかろう。
ただ、この曲は当時の僕らのココロに、これ以上に無いほどに「マッチ」していたのだ。

明日の今頃には あなたはどこにいるんだろう
誰を思ってるんだろう
You're always gonna be my love
いつか 誰かとまた恋に落ちても
I'll remember to love
You taught me how
『First Love』


どこか性的な感じのする、それでいて純粋さを保ったフレーズ。
まさにこの曲は、『First Love』なのだった。
そして、当時の僕らの状況は、それにシンクロするのに十分なものだった。


曲の冒頭にピアノが入る。
その短い旋律だけで、僕の中にいろいろな感情が走る。
今でも。今だからこそ、なのかもしれない。


確かに僕らは、あの時、一つの曲以上の何かを共有していたのだ。


First Love

First Love